松久淳 猫なんて飼うんじゃなかった

<目次>
00「ご案内」
01「猫が来る」
02「猫はタフでなければ生きていけない」
03「猫を飼う奴なんて」
04「猫は気にしない」
05「長生きの秘訣」
06「猫の小説デビュー」
07「吠える猫」
08「猫をかぶっていないときがある」
09「猫の帰還」
10「猫の飼い方」
11「好奇心に猫は落ちる」
12「マーロウ救出作戦」
13「YouTubeデビュー」
14「ミリオンを達成する猫」
15「猫の話をそのうちに」
16「老い始めた猫」
17「ボケていた」
18「もういっかいマーロウ」
19「猫はただの猫」
20「化け猫疑惑」
21「赤ちゃん返り」
22「世界でいちばん好きな猫」
23「猫なんて飼うんじゃなかった」
20「化け猫疑惑」
前回から1年が経った。マーロウのその後のことを綴っておきたい。
ボケはすっかり収まり、いやさらにボケてしまったのか、もはや吠えることはなくなった。日がな一日寝て、しかしカリカリごはんだけはいつもハフハフ食べて、驚くほどでっかいうんこをしたりしていた。
そのうんこは、ときどきトイレではない床に、そのままこんもり置いてあったりしていた。まあでも、40代半ばくらいから私自身、年に一度くらい漏らしたりしてるから、そんなに文句は言えない(いらないカミングアウト)。
しかし罠はうんこだけではなかった。ぼんやりしているからか、目がよく見えないからか、体がヨロヨロしてるからなのか、しょっちゅう水飲みに使っている、皿とグラスに足をつっこむようになった。
すると何が起こるか。床が濡れるだけならまだいい。その濡れた足でトイレに入ってしまう。当然、足、肉球の隙間にトイレ砂がびっしりついたり詰まったりする。
それで歩くから、フローリングの床にカチカチと、寝てるときはまあまあうるさい音が部屋に響く。響くだけならいいのだが、水の量が多いときは(しかも飲み水だけでなく、自分のおしっこもよく踏み間違えてる)、床にびっしり、溶けた砂の足跡が刻まれるようになったのだ。
これがまあ、クイックルワイパー1枚じゃとても拭ききれない惨状だったりして、溜息をついたことも一度や二度ではなかった。
さらにその肉球の間の砂を取ってやろうとすると、昔ほどのひどさはないが、それでも「やめろ」とばかりに威嚇されてしまう。
まあもう、言葉は悪いが死期の近い老人だ。なるべく好きにさせてやろうと思った。
毛のぱさつき、固まりがひどいので、バリカンを導入したが、やられてるときのマーロウが嫌そうなので、すぐにやめてしまった。口がやたら臭いのだが、
昔、はみがきスプレーなどを試したときに本気で嫌がったので、臭いままにした。たいして伸びなくなったので、これも大嫌いだった爪切りも、よっぽど飛び出
たものでないかぎり、そのままにしておくことにした。
前にもあったが、足の裏から血が出たり、かさぶたになってはがれたりしていたが、これも放っておくことにした。飼い主としては最低なことなのかもしれない。すぐ医者に見せるべきなのかもしれない。薬などをつけるべきなのかもしれない。
でももう、残り少ない人生、余計なストレスをかけたくない。幸い、痛そうにする素振りもないし、そもそも気づいていなそうなので、私はただ、その血のつ
いた床を、クイックルワイパーで丁寧に拭き取るだけだ。どうせもうたいして動けない。こちらの負担も、そんなに大きくはない。
これまで、ずっと一緒にいてくれてありがとう。あとは、好きなように寝て、好きなように食べて生きていってね。私はマーロウの眉間と額のあたりを、親指でゴシゴシとこするように撫でた。マーロウの数少ない、好きな撫でられ方だ。
まさか21年も生きてくれるとは思わなかった。これまでも何度か、もう死んじゃうのかなと気が気じゃなかったことはあったけど、もう俺も大丈夫。きっと悲しいけど、ここまできたら、たぶん感謝しかないと思う。おつかれさま、マーロウ。
と、ここからはマーロウを看取った描写を綴り、感動的なフィナーレを迎えるはずだった。だが。
1年が経った春、マーロウ、まさかの引っ越し。え!?
2018年4月、私は自宅を離れ、仕事場兼住居を別に移す予定だった。息子の成長やら何やらそのタイミングにはいろいろ理由があるのだが、それまでにしなかったのは、老齢のマーロウを引っ越しというストレスに晒したくなかったというのも大きい。
逆に言えば、それまでマーロウが生きてるなんて、想像もしてなかった。
しかしまさかの4月上旬、私の引っ越し予定日までマーロウ健在。前回で「終の住処」だと思っていたのに、5度目の引っ越し、6度目の新居。
そして新居移動の2日後の4月5日、まさかの22歳の誕生日。引っ越し前と何も変わらないかのような、日がな一日寝て、ハフハフ食べて、トイレでなく玄関にでっかいうんこをころん。
え、死なないの? というか、死ぬの忘れてない? このエッセイ、1年ごとに1話追加して「まだ生きてます」と書き続けることになるの?
20話ぴったりで、読者の皆さんの涙を搾り取ってやろうという私の魂胆など、猫の前には無力なのだった。
marlowe age 20


*このページは、個人的にお伝えした方のみがご覧になっています。もし検索などで偶然見つけた方は、読んでいただくのはまったくかまいませんが(ぜひ、読んでください)、他の方に伝えないでいただけると、ひじょうに嬉しいです。
*松久淳の、2018年6月に書き上げた、飼い猫マーロウについてのエッセイです。
*全23話。各ページに写真がありますが(デジカメ以前でまったくないページもあります)、話の内容と関係なく、話数=マーロウの年齢の写真になっています。
*各話の目次、エッセイ、写真、ご説明の順に載っています。あえてノーデザインのベタ打ちにしています。読みづらかったらすいません。
*出版、ウェブ関係、その他の方で本稿にご興味あるかたはご一報ください。