松久淳 猫なんて飼うんじゃなかった
<目次>
00「ご案内」
01「猫が来る」
02「猫はタフでなければ生きていけない」
03「猫を飼う奴なんて」
04「猫は気にしない」
05「長生きの秘訣」
06「猫の小説デビュー」
07「吠える猫」
08「猫をかぶっていないときがある」
09「猫の帰還」
10「猫の飼い方」
11「好奇心に猫は落ちる」
12「マーロウ救出作戦」
13「YouTubeデビュー」
14「ミリオンを達成する猫」
15「猫の話をそのうちに」
16「老い始めた猫」
17「ボケていた」
18「もういっかいマーロウ」
19「猫はただの猫」
20「化け猫疑惑」
21「赤ちゃん返り」
22「世界でいちばん好きな猫」
23「猫なんて飼うんじゃなかった」
16「老い始めた猫」
マーロウの老いを感じるようになったのは、彼が13歳くらいからだった。
気づくと、久しく棚の上のほうにジャンプすることがなくなっていた。目やにが溜まることが多くなってきていた。
後でまたごく普通の状態に戻ったのだが、数日間、ほとんどエサを食べずに、うんこもしていないことが続き、抱き上げたらびっくりするほど軽くなってい
て、ああ、いよいよその日が近いのかなと泣きそうになったこともあった。結果、(真相はわからないがなんとなく)夏バテでもしてただけか、ということに
なったのだが。
15歳の誕生日を1か月後に控えたときに、6度目の引っ越しをした。今回は流し台の下にたてこもったりすることはなかったが、やはりソファの上でごろご
ろとのたくってるばかり。かつてはあれほど棚の上など、高いところが好きで、文字通り人を見下していたというのに。年取ったね、マーロウ。
と話しかける私も、マーロウがやって来たときに27歳だったが、すでに40代半ばへとさしかかっている。平均よりもかなり早いことは自覚しているが、腰
痛、老眼、残尿、物忘れ、体力低下など、猛スピードの老化に翻弄されつつあった。そんなところは似なくていいのに、まるで、老い方がマーロウとシンクロし
てるかのような気分だった。
マーロウには、老いにともなう明らかな変化も見られた。
まず、口がものすごく臭くなった。近寄ってきてぺろぺろ手を舐めてくる姿は可愛いが、その手を匂うと猛烈に臭い。寝てるときにはときどき、口にキスをしに来ることもあるのだが、昨今はその口臭で目が覚めて思わず顔を背けてしまうこともあった。
しかしマーロウはおとなしく歯磨きさせてくれるような猫ではない(というかいままで一度も歯磨きなどしたことはない)。飲み水に混ぜる液体の歯磨きを
買ったが、効果はまったくなかった。口にしゅっとするスプレーは、素直に口を開けてくれるわけもなく、がぶっと襲いかかってくる。
もう、ほっとくことにした。
ショックだったこともある。私は初めてマーロウ「血」を見たのだ。
あるとき、机や床に赤い染みがついていた。自分で気づかないうちに、どっかを切ってしまったのかと体を点検するが、私は無傷。もしかしてとマーロウを調べると、後ろ足のかかとの部分が、両足とも、皮膚がめくれたようになっていたのだ。
どくどくと流血してるわけではないが、足をついたところには血の跡がつく。
ショックと焦りで、とりあえず絆創膏で止血することにした。が、「触れられるのを嫌がる」マーロウに絆創膏を貼るのがまず一苦労。なんとか腫れても「毛だらけ」なので剥がれやすい。その前に、マーロウ自身がすぐに舌を使って剥がしてしまう。
しょうがないので包帯を買ってきて、ちょっとやそっとじゃ取れないくらいにくるくる巻いてテープで止める、ということを数日続けたら、ようやく傷口は塞がってくれた。
あと、ときどきでっかいうんこが、トイレではなく、床にころんと置かれていることも増えた。そして「おえっおえっ」とえづき初めて、軽めの泡ゲロ(と私は呼んでいる)を吐くことも増えた。
このころから、私はそれまでの習慣だった「外出時にルンバをかけていく」ことをやめるようになった。理由はお察しのとおり、ゴミやホコリ以外のそんな「罠」を、ルンバが無邪気に巻き込んでしまうからだ。
そんな愉快な老化もありながら(って実際はうんざりなんだが)、深刻な事態もマーロウが16歳のときに訪れた。人の年齢で言うと、80代に突入したころからだ。
やたら、騒ぐようになったのである。これまでも人に対する威嚇癖はあった。そのときは「しゃああっ!」とぞっとするような声を上げるが、それは一瞬の高音。
しかも、威嚇の話をよく書いているので、しょっちゅうかと思われるかもしれないが、もうほぼ私としかおらず、人に会うこともないので、ふだんはほとんど
鳴いてもいない。甘えるときや話しかけてくるときも、「みゃー」と「にー」の間くらいの、壁一枚隔てたら聞こえないくらいの音量だ。
ところが、急に一日に何度か「うおおおおおお」と吠えるようになった。「ぶわああああああ」とか「ぐおおおおおお」と、別の部屋にも響くような、爆音&重低音。もう耳を塞ぎたいくらいのものだ。
それも私に対して威嚇をしているわけではない。どこに向けてということもなく、何がきっかけというわけでもなく、ただたんに、突然吠え始めるのだ。しかも時間を問わず。
なぜ、こんなことになったのか。私にはまったく見当もつかなかった。
marlowe age 16 (写真なし)
*このページは、個人的にお伝えした方のみがご覧になっています。もし検索などで偶然見つけた方は、読んでいただくのはまったくかまいませんが(ぜひ、読んでください)、他の方に伝えないでいただけると、ひじょうに嬉しいです。
*松久淳の、2018年6月に書き上げた、飼い猫マーロウについてのエッセイです。
*全23話。各ページに写真がありますが(デジカメ以前でまったくないページもあります)、話の内容と関係なく、話数=マーロウの年齢の写真になっています。
*各話の目次、エッセイ、写真、ご説明の順に載っています。あえてノーデザインのベタ打ちにしています。読みづらかったらすいません。
*出版、ウェブ関係、その他の方で本稿にご興味あるかたはご一報ください。