松久淳 猫なんて飼うんじゃなかった



<目次>
00「ご案内
01「猫が来る
02「猫はタフでなければ生きていけない
03「猫を飼う奴なんて
04「猫は気にしない
05「長生きの秘訣
06「猫の小説デビュー
07「吠える猫
08「猫をかぶっていないときがある
09「猫の帰還
10「猫の飼い方
11「好奇心に猫は落ちる
12「マーロウ救出作戦
13「YouTubeデビュー
14「ミリオンを達成する猫
15「猫の話をそのうちに
16「老い始めた猫
17「ボケていた
18「もういっかいマーロウ
19「猫はただの猫
20「化け猫疑惑
21「赤ちゃん返り
22「世界でいちばん好きな猫
23「猫なんて飼うんじゃなかった

14「ミリオンを達成する猫」

 自分の保存用にYouTubeにアップしていた、マーロウの動画の数々。ほとんど見る人もいない(というか、そもそも知られることもない)と思っていたのに、あるとき気づくと、その中のひとつの動画の視聴回数が、爆発的に増えていることに気づいた。
 それは、まあまあどうでもいい動画だ。
 床にのっそりくつろいでいるマーロウ。私はそのふくよかなお腹に向かって、チョロQを走らせる。お腹にぶつかって止まるチョロQ。マーロウは手でそれを 自分のほうに引き寄せようとする。そして匂いを嗅ごうと鼻を近づけた瞬間、引き寄せたときに偶然巻かれたゼンマイのおかげで、チョロQは勢いよく発車す る。突然、自分の手元から走り去る車を、ぽかんと見送るマーロウ。
 ただそれだけの動画。だが(本当にきっかけが何だったのかはわからないのだが)、その動画は現在、110万回再生を突破している。
 驚異の100万超え。私、自分の本もミリオンセラーになどなったことないのに。
 それだけ視聴されると、コメントというものも多数書き込まれる。だいたいは好意的に「可愛い」「面白い」といったタイプのものだが、ああ、人目につくというのはこういうことかと、私は思わず感心してしまった。
 まったく私には悪気もなく(それがいけないのかもしれないが)、マーロウはこの程度で痛がったりするような奴ではないから思ってもみなかったが、「これって猫をいじめるんじゃ?」「勢いよくぶつけて可哀想」といったコメントも目にするようになった。
 でも、まあそれも人それぞれの印象なのでかまわない。しかし次第に書き込んだ方々同士で、動物愛護の観点から、目を覆いたくなるような罵詈雑言の応酬が始まったりしていた。いや、本当に申し訳ないことに、そんなおっきなテーマを問いかけたつもりは、これっぽっちもない。
 そして、私はあえてこの動画に「ミラクル」という形容詞をつけてみたのだが、「何がミラクルなんだよ?再生数乞食がタイトルで広告料稼ぎか」と書き込んできた人、同じような文句(いちゃもん?)をつけてきた人は、少なからずいた。
 これだけはちょっと反論せざるを得なかった。そもそも、広告は入っていないからだ。そんなのは見ればわかることなのだが(いくらか知らないが、大金が舞い込むなら入れとけばよかったと思ったが、後の祭り)。
 さてマーロウの動画が人気になると、今度はテレビ局からよくメールが来るようになった。よくある「面白動物動画特集」的なものに使わせてください、という内容だ。
 これは今回限らず、ずっと出版の仕事をしてきたのでときどきあるのだが、テレビ局からアイデアを求められたり、取材を求められたりする場合、残念ながらその方の態度などに、不満が残ることが多い。
 もちろんきちんとされている方もたくさんいる、と一応断っておく。でも、やたらなれなれしい文章での依頼に、返信もしたくないこともある。こちらが「企 画書までは必要ないので、日時、案件、謝礼など必要事項をまとめてお知らせください」と返すと、「ギャラならないです」とひとつも悪びれず書いてくる人も いる。中には、それで返信しなくなる人もいる。
 マーロウ動画に関しても、まあ失礼、というか雑なやりとりがあったので、2回ほどお断りした。どんな仕事でもそうだと思うが、雑な人とは早目に縁を切ったほうがストレスが溜まらなくていい、というのが私の四半世紀のキャリアで導き出した仕事術だ。術ではないな。
 別にこちらも、マーロウ動画で儲けようと思ってないのでギャラはいらない。しかし、一視聴者から素材を借りてオンエアするからには、「このような形で、 何日に放送させていただきます。万一、その日のニュースなどで日程がずれる場合がございますが、その際はまたご連絡さしあげますので、ご了承ください」く らいがなぜ書けない?
 なぜ「どうぞご使用ください。詳細をお知らせください」と伝えてるのに、オンエア日まで何も連絡せずにいられる?(その方には、オンエア前日に、「絶対に使用しないでください」と伝えた)
 そこまでの応対をクリアし、使用許可したある番組を見ていたら、頼んできたマーロウの動画は放送されなかった。差し替えなど事情があったのだろう。オンエア後、担当者の連絡を待った。しかし、何日経っても詫びのひとつもない。当人にメールするも、それもスルー。
 そして私は、もうストレスが溜まらないように、次に依頼をくださった番組の方には、最初から素材提供はお断りしていますと告げることにした。しかし、そのおかげで私は、激しく後悔することになる。

marlowe age 14



*このページは、個人的にお伝えした方のみがご覧になっています。もし検索などで偶然見つけた方は、読んでいただくのはまったくかまいませんが(ぜひ、読んでください)、他の方に伝えないでいただけると、ひじょうに嬉しいです。

松久淳の、2018年6月に書き上げた、飼い猫マーロウについてのエッセイです。

*全23話。各ページに写真がありますが(デジカメ以前でまったくないページもあります)、話の内容と関係なく、話数=マーロウの年齢の写真になっています。

*各話の目次、エッセイ、写真、ご説明の順に載っています。あえてノーデザインのベタ打ちにしています。読みづらかったらすいません。

*出版、ウェブ関係、その他の方で本稿にご興味あるかたはご一報ください。